綿原芹『うたかたの娘』あらすじ!人魚が映す美醜と人間の闇【横溝正史ミステリ&ホラー大賞】

今回は、綿原芹さんの『うたかたの娘』という小説を紹介します!

「人魚」と聞いて、あなたはどんな姿を思い浮かべますか?

海の泡に消える悲恋の象徴?
それとも、美しくも残酷な妖怪?

『うたかたの娘』は、そんな人魚のイメージを静かに、でも確実に塗り替えてくる。

第45回横溝正史ミステリ&ホラー大賞を受賞したこの作品は、ホラーでもミステリでもありながら、それだけでは語りきれない深さがあった。

高校生の恋、会社のパワハラ、水族館の異変、そして過去の記憶。
4つの短編がそれぞれの視点で語られ、やがて一つの物語に収束していく。

読み進めるほどに、人魚という存在がただの幻想ではなく、人間の欲望や孤独を映す鏡のように思えてくる。

怖いのに、どこか切なくて、読み終えたあとも心に残る。

そんな『うたかたの娘』を読んで感じたことを、ここに綴ってみたい。

人魚が映す美醜と人間の闇
『うたかたの娘』

著者:綿原芹
ページ数:256ページ

あらすじ

道に佇む不気味な人物をきっかけにしてナンパに成功した「僕」。

相手の女性と雑談をするうちに故郷の話になる。そこは若狭のとある港町で、奇妙な人魚伝説があるのだ。

そのまま「僕」は高校時代を思い出し、並外れた美しさで目立っていた水嶋という女子生徒のことを語る。

彼女はある日、秘密を「僕」に明かした。

「私、人魚かもしれん」幼い頃に〈何か〉の血を飲んだことで、大病が治り、さらには顔の造りが美しく変化したのだと――。
(Amazonより)

見どころ

人魚という存在の描き方が新鮮

この作品の中心にいるのは、誰もが知る「人魚」。

だけど、ここで描かれる人魚は、童話のような儚い存在ではない。

美しさで人間を惹きつけ、血肉を喰らい、身体を乗っ取ることで永遠の命を得る。

そんなおぞましい生態を持ちながら、どこか哀しみを帯びた存在として描かれている。

怖いはずなのに、どこか惹かれてしまう。
その矛盾した感情が、読者の心に静かに残る。

4つの短編が織りなす連作の構成

物語は「あぶくの娘」「にんぎょにんぎょう」「へしむれる」「鏡の穴」の4編からなる連作短編集。

それぞれ異なる人物の視点で語られ、舞台も高校、会社、水族館、そして過去の記憶と多彩。

最初はバラバラに見える話が、読み進めるうちに少しずつ繋がっていく。

最終話でそれまでの断片がひとつにまとまる瞬間は、静かな感動がある。

語り手の仕掛けと視点の転換

各章には「語り手が実は…」というような仕掛けがあり、読者の予想を裏切る展開が用意されている。

ただ、それは派手なトリックではなく、物語の流れの中で自然に明かされていくもの。

驚きよりも、静かな納得があるタイプの構成で、読後に「そうだったのか」とじんわり染みてくる。

美醜や人間の欲望へのまなざし

この作品が単なるホラーにとどまらないのは、「美しさ」や「人間の欲望」に対する深い問いかけがあるから。

ルッキズム、パワハラ、孤独、嫉妬。

人間が抱える闇が、物語の中で静かに浮かび上がってくる。

人魚はその鏡のような存在で、彼女に惹かれる人々の姿を通して、読者は自分自身の中にある「見たくないもの」と向き合うことになる。

怖さよりも哀しさが残る読後感

血や暴力で驚かせるようなホラーではなく、日常の中にひそむ違和感や、取り返しのつかない選択の重みが、静かに胸に迫ってくる。

最終話で明かされる真実と、それまでの話が繋がっていく流れは、確かな余韻を残す。

怖いのに、どこか温かい。
そんな不思議な読後感が、この作品の魅力だと思う。

読者の口コミ

【この作品が合う人の口コミ】

ホラーが苦手でも読める
グロさはなく、物語としての完成度が高い。哲学的な側面もあって楽しめた。

静かな怖さと美しさが心に残る
ホラーなのにどこか切なくて、読後に余韻が残る作品だった。

人魚の描写が新鮮で魅力的
幻想的でおぞましい存在としての人魚が印象的。美醜のテーマも深い。

短編の構成が巧みで引き込まれる
それぞれの話が少しずつ繋がっていく流れが面白く、最後まで一気に読めた。

【この作品が合わなかった人の口コミ】

登場人物に魅力を感じない
人物描写が浅く、感情移入しづらかった。リアリティも乏しく感じた。

ホラーやミステリ要素が薄い
ジャンル名に期待して読むと物足りない。怖さも謎解きも控えめ。

感情が揺さぶられなかった
淡々と進む印象で、特に強く印象に残る場面がなかった。

語りの仕掛けが予想できた
「語り手の正体」などの構成が読めてしまい、驚きが少なかった

読んでみた感想(ネタバレ注意)

綿原芹『うたかたの娘』を読んで、静かに心を揺さぶられるような読書体験だった。

人魚という題材は、どこか幻想的でロマンチックな印象があるけれど、この作品ではそのイメージがじわじわと塗り替えられていった。

美しさが人を惑わせ、血肉を喰らい、身体を乗っ取る。

そんなおぞましい存在なのに、描かれ方はどこか儚くて、哀しくて、読んでいるうちに怖さよりも切なさが勝ってくるような感じ。

4つの短編はそれぞれ違う人物の視点で語られていて、高校生の恋や会社のパワハラ、水族館の異変、そして過去の記憶と、舞台もテーマもバラバラ。

でも、読み進めるうちに少しずつ繋がっていって、最終話ですべてがまとまる瞬間には、静かな衝撃があった。

語り手の仕掛けや視点の転換も巧みで、「あれ?」と思ったところが後から効いてくる。

派手なトリックではないけれど、物語の流れの中で自然に明かされていくからこそ、読後にじんわりと残るような感覚。

何より印象に残ったのは、人間の美醜や欲望、孤独といったテーマに対する向き合い方。

人魚はただ美しいだけで、暴力をふるうのは人間。
そんな構図が、物語の中で浮かび上がってくる。

読んでいて、自分の中にもある「見たくない部分」に触れられたような気がした。

ホラーやミステリを期待して読むと物足りなさを感じるかもしれない。

でも、静かに心に染みてくるような物語が好きな人には、きっと響くと思う。
新人とは思えない筆致で、次の作品も読んでみたくなる作家だった。

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