今回は、櫻田智也さんの『失われた貌』という小説を紹介します!
山奥の崖っぷちで見つかった、顔を潰されて歯も抜かれた、手首のない遺体。
なんだこの事件…
そこからどんどん別の事件や人物が絡んできて、気づけば深い森の中に迷い込んだみたいに、物語に引き込まれる。
ド派手なトリックとか、びっくり展開で驚かせるタイプのミステリじゃなく、地道な捜査と人間の心の奥にじっくり向き合っていく作品。
読み進めるうちに、静かに伏線が回収されていく。
最近よくある「どんでん返しドーン!」みたいな派手さはないけど、その分、読後の余韻がすごく、最初のページに戻りたくなるような…
このブログでは、『失われた貌』の魅力を、ストーリーの構成とか登場人物の描き方、そしてタイトルの意味なんかを通して、ゆるっと語っていこうと思います。

伏線回収が見事な警察小説
『失われた貌』
著者 :櫻田智也
ページ数:304ページ
あらすじ
山奥で、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見された。
不審者の目撃情報があるにもかかわらず、警察の対応が不十分だという投書がなされた直後、上層部がピリピリしている最中の出来事だった。
事件報道後、生活安全課に一人の小学生男子が訪れ、死体は「自分のお父さんかもしれない」と言う。彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けていた。
間を置かず新たな殺人事件の発生が判明し、それを切っ掛けに最初の死体の身元も判明。
それは、男の子の父親ではなかった。顔を潰された死体は前科のある探偵で、依頼人の弱みを握っては脅迫を繰り返し、恨みを買っていた男だった。
(Amazonより)
見どころ
緊張感のある導入
まず冒頭から空気が違う。
山奥の崖で見つかった遺体は、顔を潰され、歯を抜かれ、手首まで切断されているという凄惨な状態。
派手な演出はないのに、描写が静かで淡々としているからこそ、逆にその異様さが際立っていて、読んでいてゾクッとする。
「なんでこんなことに?」という疑問が自然と湧いてきて、読者はその答えを知りたくてページをめくる手が止まらなくなる。
物語の入り口として、ものすごく引き込まれる導入。
地道な捜査と伏線
この作品の真骨頂は、刑事たちの捜査の積み重ねにある。
派手なトリックやどんでん返しに頼るのではなく、証言や証拠を一つずつ丁寧に拾い上げていく。
その過程がリアルで、読んでいて「こういう捜査って本当にあるんだろうな」と思わせてくれる説得力。
主人公の日野刑事は、違和感や小さな手がかりを見逃さず、粘り強く真相に迫っていくタイプ。
彼の視点で物語が進むから、読者も一緒に事件を追っているような感覚になって、伏線が回収されるたびに「そうだったのか…!」と納得と驚き。
複数の事件が少しずつ繋がっていく構成も見事で、最後には一枚の絵が完成するような快感がある。
登場人物の人間味と関係性の描写
日野刑事は冷静で誠実な人物だけど、事件を追う中で人間としての葛藤にも直面する。
彼の言葉や判断の端々に、警察官としての責任感と、関係者を傷つけてしまうかもしれないという苦悩がにじみ出ていて、読んでいて胸が締めつけられる場面もある。
そして、彼を取り巻く人物たち「部下の入江」「剣菱弁護士」「バーのマスター」
それぞれに個性があって、彼らとのやりとりが物語に温かみを与えてくれる。
事件の緊張感の中にも、こうした人間関係の描写があることで、読者の心に残る。
タイトルに込められた意味
「失われた貌」というタイトル、最初は単に「顔を失った遺体」のことかと思っていたんですが、読み進めるうちにその意味が広がっていく。
それは登場人物たちが抱える過去や喪失、そして事件の真相に深く関わってくる言葉で、終盤に差し掛かると「この物語は何を描こうとしていたのか」を改めて考えさせられる。
事件が解決して「はい!終わり!」
ではなくて、読者の心に何かを残していくラスト。
警察小説でありながら、文学的な味わいも感じられるところが、この作品のすごさ。
国内外の警察小説へのオマージュ
読んでいて感じたのは、海外の警察小説。
特にヒラリー・ウォーのような、地味だけど丹念な捜査スタイルへの敬意。
それを踏まえつつ、現代日本の警察組織や人間関係をリアルに描いているところが新鮮。
横山秀夫作品のような内部の権力構造も垣間見えるけれど、重苦しさはなくて、むしろ現代的な緩やかさが心地いい。
最近の国内ミステリにありがちな、過剰な演出やトリックにちょっと疲れてきたな…という人には、きっとこの誠実で地に足のついた物語がしっくりくると思う。
読者の口コミ
【この作品が合う人の口コミ】
・静かな余韻が残る
真相にたどり着いた後の人間ドラマに深みがあり、事件解決だけでは終わらない読後感が良かった
・地道な捜査が心地よい
派手さはないが、丁寧な聞き込みや証拠の積み重ねがリアルで、警察小説としての醍醐味を味わえた。
・伏線回収が見事
バラバラに見えた事案が最後に違和感なく繋がり、読後に「ピースが嵌った快感」を味わえた。
・登場人物に魅力がある
日野刑事をはじめ、入江やバーのマスターなど脇役も印象的で、シリーズ化を望む声も多い。
【この作品が合わなかった人の口コミ】
・キャラの関係性が分かりづらい
登場人物が多く、相関図が欲しくなるほど混乱したという指摘もあり、読者によっては難解に感じることも。
・帯の煽りと内容にギャップ
「どんでん返し」や「衝撃の真相」といった宣伝文句に期待しすぎて、物足りなさを感じた。
・トリックに新鮮味がない
最大の仕掛けが既視感のあるもので、ミステリとしての驚きが弱かったという声も。
・テンポがゆっくりすぎる
序盤の展開が淡々としていて、読み進めるのにやや根気が必要だったという読者もいた。
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(Amazonより)
読んでみた感想(ネタバレ注意)
派手なトリックや驚きの展開を期待してた人には、ちょっと肩透かしかもしれない。
でも、じっくりと真相に近づいていく捜査の過程や、登場人物たちの人間くささが、なんとも言えず心に残る
物語の始まりは衝撃的。
顔を潰され、歯を抜かれ、手首を切断された遺体が山奥で見つかる。
もうこの時点で「なんでこんなことに?」って引き込まれる。
しかも、身元不明。
読者としては「これは入れ替わりトリックか?」って思っちゃうけど、そこをあえて外してくるのがこの作品の面白いところ。
ただ、正直言うと、誰がどのセリフを喋ってるのか分かりづらい場面もあって、ちょっと混乱した。
登場人物も多いし、関係性も複雑だから、整理しながら読まないと置いていかれる感じはある。
でも、それが逆にリアルというか、実際の捜査ってこういうふうに絡み合ってるんだろうなって思わせてくれた。
日野刑事のキャラも良かった。
冷静で誠実だけど、時々見せる人間らしい迷いや葛藤が、すごく自然で好感が持てる。
カフェインと胃薬を気にしてる描写も、妙にリアルで「この人、ちゃんと生きてるな」って感じがした。
羽幌警部とのやりとりも、ただの職務上の関係じゃなくて、過去の因縁や個人的な感情がにじんでいて、深みがあった。
そして、子どもたち。
隼人くんや大哉少年の存在が、物語に優しさと切なさを添えてくれる。
特に隼人くんの「帰れない、だって自転車できちゃった」ってセリフは、胸がぎゅっとなった。
大人の事情で振り回される子どもって、ほんとに辛い。
タイトルの「貌」も、読み終えてから効いてくる。
ただの「顔」じゃなくて、「貌」っていう字を使ってるところに、登場人物たちが抱えている仮面や役割、そしてそれを剥がされたときの痛みが込められてる気がした。
どんでん返しや伏線回収を期待して読むと、「そこまでじゃないかも」と感じる人もいるかもしれない。
でも、物語としての完成度は高いし、何より誠実さがある。
どんでん返しのようなミステリーに飽きてきた人ほど、こういう作品に出会うと「まだこういうのもあるんだな」って思えるんじゃないかな。
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『失われた貌』
著者:櫻田智也



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