今回は、夏木志朋さんの『Nの逸脱』という小説を紹介します!
日常は、いつでも崩れうる。
それは誰かの悪意や偶然の事故ではなく、ほんの些細な違和感から始まるかもしれない。
満員電車で奥につめない人に対する苛立ち、うまくいかない仕事の疲れ、占いで見えた“少し不穏な未来”。『Nの逸脱』は、そんな小さなほころびから人が逸れていく瞬間を鮮やかに描きます。
直木賞候補作に名を連ねながら、該当作なしという意外な結果となった本作。
3編それぞれがまったく異なる人物を描いているのに、読めば読むほど「この奇怪さは自分の中にもあるのかも」とゾクリとする。
だけど怖いだけじゃない。
奇妙で、痛々しくて、でもどこか愛おしい
そんな“逸脱の物語”に、あなたも巻き込まれてみませんか。
この記事では、そんな『Nの逸脱』の魅力と人間模様を丁寧に掘り下げていきます。
誰かの物語のはずなのに、気づけば自分のすぐ隣にある感情かもしれないから。

日常から逸れる瞬間
『Nの逸脱』
著者 :夏木志朋
ページ数:278ページ
あらすじ
何気なく開けてしまった隣人の扉、「フツウ」の奥に隠されていたものは――
爬虫類のペットショップでアルバイトをする金本篤は、売れ残ったフトアゴヒゲトカゲが処分されそうになるのを見て、店長に譲ってくれと頼む。だが、提示された金額はあまりに高額で手が出ない。
「ある男」を強請って金を得ようと一計を案じるのだが、自ら仕掛けた罠が思いがけぬ結末を呼び込んでしまう……(「場違いな客」)。
生徒たちにいたぶられ精神的に追い詰められていた高校数学教師・西智子は、深夜の満員電車で非常識な若い女と遭遇する。冷静になろうとするが高ぶる感情が抑えきれず、駅で降りた見知らぬ若い女を追尾し始めて……(「スタンドプレイ」)。
占い師・坂東イリスのもとに、弟子にして欲しいという若い女性がやってくる。一見、優秀そうにも見える彼女は、やることなすことズレていて、失敗ばかり。
クビにしようとしてもしつこく食い下がり、ぜひ自分を占い師にしてくれと訴えるのだが……(「占い師B」)。
追う者と追われる者が入れ替わり、善と悪が反転していく予測不可能な展開――隣の人たちが繰りひろげる3つの物語。
(Amazonより)
見どころ
登場人物たちの“奇怪さ”は、実は誰にでもある
作中に登場する金本、智子、イリスと秋津は、それぞれどこか常軌を逸した行動をとります。
一見、異常とも言える振る舞いですが、根底にあるのは「誤解」「思い込み」「抑圧された感情」といった誰しもが持っている心理です。
満員電車で奥に詰めない人に苛立ちを覚える――それだけなら普通の感情。
しかし、智子はその感情に流されて一線を超えてしまう。
こうした「誰でも持っているけれど普通は表に出さない感情」が極端なかたちで物語化されている点は、読者の心に深い共感を呼びます。
物語の世界線の“重なり”が生む不穏さと奥行き
三つの短編はそれぞれ独立していても、どこかで緩やかに交差していきます。
読者は最初、それぞれの話が別世界の出来事として受け取りますが、三作目で過去の物語と繋がりがあることに気づいた瞬間、作品全体に一つの世界が広がる感覚に襲われます。
この仕掛けによって、物語に奥行きが生まれ、“日常のすぐ隣にある非日常”がよりリアルに迫ってくるのです。
リンクのさせ方については賛否両論もありますが、それもまた本作の“逸脱”ぶりを示しているとも言えます。
占い師Bの奇妙さと爽快さが際立つ
3作目「占い師B」は特に印象的で、最後に読者の印象を塗り替えるような力を持っています。
一見オカルト的な力を持つ占い師と、理屈っぽい弟子志願者・秋津とのやりとりは、どこか滑稽でありながら人間の根源的な欲望――
“誰かに認められたい”“人生を導いてほしい”という気持ちをリアルに映し出します。
秋津という一風変わった人物が暴走する様は危うさ満点ですが、その背後には誰もが抱えうる孤独や不安が隠れていて、ただの“奇人”では終わらない深みがあります。
読後には「この2人の話、もっと読みたい」と思わせるほどの余韻が残ります。
逸脱のリアリティ――誰にでも起こり得る一歩
全編を通して描かれるのは、人がふとした瞬間に踏み外す“逸脱”です。
そしてその逸脱の起点は、ほんの些細なきっかけ。
生徒の一言、満員電車での一触即発、タロットの一枚…。
自分でも知らないうちに心がぐらつき、抑えが効かなくなる――
そんな場面に読者自身が思わず身を重ねてしまいます。
本作が単なる奇妙な物語にとどまらず、現実のすぐ裏側にあるような“怖さ”と“共感”を呼ぶのは、この構造にあると言えるでしょう。
タイトル『Nの逸脱』が示すもの
作中では明言されませんが、多くの読者が「N=Neighbor(隣人)」や「Normal(普通)」と解釈しています。
つまり、“普通”と思っていた人、“隣にいる人”が、実はもう逸脱しているかもしれない――そんな怖さを内包したタイトル。
そう考えると、登場人物たちの逸脱は他人事ではなく、「もしかしたら自分も」「あの人も」という身近な感覚を喚起します。
ミステリーでもホラーでもないこの作品が読者に深い印象を残す理由は、この“タイトルの余白”にもあるのです。
読者の口コミ
【この作品が合う人の口コミ】
・日常のすぐ隣にある非日常
自分にも起こり得るかもしれない“逸脱”が描かれていてゾクッとした。
・奇妙なのに共感できる
登場人物の逸脱が突飛なのに、感情の動機がリアルで共感できた。
・不穏なのに爽快
不気味な展開が続くのに、読後感は意外とスッキリしていてクセになる。
・占い師Bが最高
秋津と坂東のやりとりが面白く、続編を読みたいほどキャラが立っていた。
【この作品が合わなかった人の口コミ】
・直木賞候補としては弱い
面白い部分もあるが、受賞作としてのインパクトには欠ける印象。
・終盤の展開が物足りない
中盤まで面白かったが、ラストが拍子抜けで印象が薄かった。
・ホンワカ感が邪魔
序盤の不穏さに期待したのに、終盤で妙に優しさが出てきて冷めた。
・登場人物に感情移入できない
行動が突飛すぎて、リアリティを感じられず入り込めなかった。
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『Nの逸脱』
著/夏木志朋



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